パワハラ問題を考える(その1)-なぜパワハラは増え続けるのか?

◆増え続けるパワハラ

今年6 月厚生労働省より「平成26 年度個別労働紛争解決制度の施行状況」が公表されました。それによると、民事上の個別労働紛争の相談として「いじめ・嫌がらせ」の件数が62,191 件(前年59,197 件)と3 年連続でトップとなっています。この制度が開始されてからの相談件数はグラフの通りですが、全体の相談件数が12 年間で2.3 倍の伸びであるのに対し、パワハラに該当する「いじめ・嫌がらせ」は9.4 倍になります。この現象を見て、日本の会社が年と共に“いじめ体質”になっていると考えるのは正しくありません。
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◆パワハラ増加の原因

パワハラ増加の原因として、次の4 つが考えられます。

(1)労働・雇用関係の変化

かつて日本の雇用形態は“年功序列”を基礎にした“終身雇用” と呼ばれていました。一度企業に属すると、余程のことがない限り定年までは勤めることが普通のこととされていました。嫌なことがあっても長期的には是正され、また賃金も年と共に上昇することが期待できました。ところが日本企業のグローバル化が進む中、雇用形態が多様化し、必ずしも雇用が安定的ではなく、いわゆる非正規社員(パートアルバイト、契約社員という期間限定型従業員)が大きな割合を占めるようになってきました。そうなると、長期的な視野で従業員が自分の処遇や評価を考えることが難しくなります。昔であれば、飲み込んで我慢できたことも我慢できないことも起こり得ます。

(2)従業員の労働観・価値観の変化

また、従業員の価値観が大きく変わってきていることがあげられます。最近は“個の尊重” が当たり前のこととされますから、会社のためであれば滅私奉公というような考え方をする人は少なくなってきています。無理無茶な命令でも何とか頑張ってやり遂げるのが企業人だという考え方が美徳とされる時代もありましたが、今やそのような考え方を一般化することは難しくなっています。「嫌なものは嫌」、「納得できないことはしない」と考える人が増えているということです。

(3)管理職(上司)の認識・理解不足

以上のように労働雇用関係をめぐる意識が大きく変わっているにも関わらず、上司の中にはそれに追いついていない人がいるということがパワハラを増加させる原因になっています。「俺の時代はこれ位当たり前だった。」「部下はこれくらいやって当然だ。」等々昔の自己の成功パターンをそのまま今の部下に当てはめて、仕事を進めようとすると必ず問題を起こします。今自分のもとにいる部下とはどういうものの考え方をする人なのかを十分わきまえて、その部下にあった指導を行う必要があるのです。パワハラとして問題となるケースの多くは、上司が単に粗暴であるとか、加虐趣味があるということではなく、こうした相手を見誤っての業務指導のやり方が原因であることが多いのです。

(4)経営層の認識・理解不足

パワハラは問題上司と被害従業員の関係だけで発生するものではありません。パワハラが発生しやすい企業風土というものがあります。残業が多い、休暇が取り難い職場では職場の士気が低下し、ちょっとしたことで不満が爆発することがあります。また、成果評価をうるさく言われて従業員間の競争が激しい、あるいは業績達成を過度に厳しく追及されるような企業も職場でのいざこざが絶えず、パワハラの温床になっているという事例が見られます。経営効率や収益を追うことは企業として不可欠の行為ですが、同時に企業内外に注意を配り、人間性や社会性を同時に満足していくことも企業の重大な義務です。これを忘れて、“株主価値最大化” だけを目指すような経営姿勢では、パワハラをなくすことはできません。

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